CINEMA BABY

ベイビーみたいに欲望の赴くまま毎日を真面目に楽しんで過ごすのよ、映画を見ながらね。

『美しき棘』レア・セドゥが魅せる、生の実感

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photo from Full Metal Bitch

原題:BELLE EPINE

監督:レベッカ・ズロトヴスキ

脚本:レベッカ・ズロトヴスキ

出演:レア・セドゥ、アナイス・ドゥムーステ

配給:日本未公開

公開:2010年

製作国:フランス

 

カンヌ映画祭批評家習慣上映作品。母親の死によって喪失感にまみれた17歳の少女が無気力に、反社会的なものに目を向ける。ありがちな話ではあるけど、アメリカ映画にはないフランス映画的な芸術性が常にあるので、そこに違いを感じますね。

 

 

この記事では結末を含む『美しき棘』の内容について書かれています

 

 

 

 

 レア・セドゥ演じる主人公プリューデンスは万引きをし、タバコを吸い、バイクレースに興味を持つ。同じく万引きをしていた不良少女に自ら歩み寄り、バイクグループに身を寄せる。不良少女がするように、男を求めた。喪失感を感じた女が寂しさを埋めるために男を求めるのは当たり前で、彼女はそれ以上に違法で命知らずな存在に惹かれたのでしょう。

 

 彼女は男からの愛より、母の死を受け入れられないまま自分の中で欠落した”生の実感”を求めていました。向こう見ずなバイカーが彼女の目には生を実感している者に見えたのです。

 

 

 

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photo from http://movieblogs.soup.io/tag/dvd?newer=1&since=97578649

 

 グループの中の男と付き合うようになった彼女はある夜、彼に抱かれに行きます。そこのシーンでは、愛の国フランスと謳われているにも関わらず、男性の女性に対する愛が軽薄で、それより女が女を大事にし合っている部分が描かれていたのが印象的。(本来はそうなのかも…?)

 

愛のない挿入のみの短時間セックスが終わり、彼女は痛いと言ったあと彼の背中にあるタトゥーについて質問をする。翌朝目覚めると彼はいなくて、泊まったのは彼の実家だったので彼の母親がキッチンにたっています。挨拶をすると母親は快く朝ご飯を食べていけと彼女に言いますが、彼女は居心地を悪く思い出て行こうとします。そんな彼女に母親は「足が冷えるから」と言ってバスの乗車券を渡したうえに、彼女を力強く抱きしめたのです。

 

母親を亡くした彼女が、男に求めていた無償の愛を彼の母親から受けるこのシーンに胸が詰まります。まさに、フェム・ファタール!どの母親も、かつては同じ道を歩んできた、だからこそ出来る事なんですよ。なんだか、女としての生き方を学んだ気がしました。

 

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 photo from http://www.telerama.fr/cinema/films/belle-epine,411991.php

 

 その後、そのバイカーのボーイフレンドと彼女は映画を見に行くが彼女は席をたって黙って帰ろうとします。追ってきた男がそれを見つけ、逆上。「お前の気まぐれにはうんざりだ!望み通り抱いてやったのに、その気にさせたのはそっちだろ、行くなら行け!」と散々罵ったうえで土砂降りの中彼女を外に放り出します。

 

そんな彼を結局外で待っていた彼女は出てきた男をすがるように睨みつけますが、男はそれを見て仲間の女を連れて去って行くのです。彼女の胸に棘が刺さる瞬間でした。

しかし、仕方なくそこからバスでバイカーの集い場所に彼女が向かったその帰りに、なんと事故に遭って死んだ、先ほどまで自分を罵っていた彼氏を発見する事になるのです。

 

 ラストシーン、彼女はクタクタで家路につく。短い時間ではあったものの、彼氏だった男の死に直面したことで死というものを受け入れた。彼女が死を受け入れられたことによって母親の記憶が目の前に現れ、ようやく感情をむき出しにして泣くのです。そして、母親がつけていた補聴器をつけながら、ベランダに出て外のサイレンの音を聞く。もともと響く音が、余計うるさく耳に入る。そして風を感じながら目を閉じた。間違いなく彼女はその時、生を実感したのです。その描写が、とても美しくて力強い。

 

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photos from Full Metal Bitch

 

不良少女として出演していた私と同名の女優アナイス・ドゥムーステも、近年ではフランソワ・オゾンの『彼は秘密の女ともだち』の主演に抜擢されるなど、スポットライトを浴びています。

『美しき棘』主演のレア・セドゥが演じる傷ついた少女の再生の物語であり、“17歳”という年齢の少女の情緒を捉えた作品としても、私は好きですね。

 

 

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