『百円の恋』呆れる程に痛い恋、なめんなよ
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監督:武正晴
脚本:足立紳
出演:安藤サクラ
配給:SPOTTED PRODUCTION
公開:2014.12
製作国:日本
映画開始3分、斉藤一子(安藤さくら)の見るに耐えない女を捨て墜ちに墜ちてる生活が、まぁとにかく酷い!
彼女は、そんな自分の痛いところをついてくる妹に逆切れをして家出、32歳初の一人暮らしをはじめる。一切普通でなく、可愛くもなくむしろ同じ女として苦笑いをしてしまうこのヒロインが、映画の後半に快進撃を繰り広げます。呆れてしまう程ひどかった彼女に、私たちはいつのまにか関心や感動さえ感じてしまうでしょう。
この記事では結末を含む『百円の恋』の内容について書かれています
家出後、彼女は生計をたてるために百円ショップで働き始め、近くのボクシングジムに所属するボクサー(新井浩文)に恋をしてしまいます。このボクサーも普通の男じゃなく、一子をいきなりデートに誘ってその気にさせといて(断られなさそうだったからという理由)彼女なりに恋する乙女として下着や服に気を使いはじめ、ニャンニャンしはじめた瞬間に(やる事はやっておいて)「馴れ馴れしいな」とバッサリ吐き捨て、その辺の豆腐屋の女に乗り換えたのです。(クソやろう!)
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しかし、この失恋が一子にとって、重要な転機になるのです。それこそ最初は彼女も未練たらたらで、また会いたいがために彼の去ったボクシングジムに自分も通いだすんです。一子らしく、ダラダラのろのろと続けていたボクシングですが、彼が自分に別れを告げた原因が他の女の存在であるということを悟った瞬間、彼女の動きは本気になりはじめるのです。
それはもう、ボクシング素人の人間にも十分理解できる、同じ経験のある女性なら尚更に。「てめぇ、なめんなよ!!」って気持ちが、彼女の全身から伝わってくるんですよ。我々が男に最悪な事をされたとき、脳内で繰り広げるパンチを、彼女は実際にやってのけました。いいぞ、一子!もっとやれ!
映画終盤、生まれてから負け続けてきた32年、彼女はついに勝利を目標にボクシングの試合に出ます。試合には自分を捨てたあのクソ野郎ボクサー、そしてずっと負い目を感じてきた家族を招待しています。
試合は一発食らわせたものの惨敗。しかし、結果というより長い尺をとって流れていた試合風景、彼女の表情、苦しい声が、決してキレイではないのに、勝利にも代え難いほど美しく、素晴らしかったのです。
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社会にも男にも不適合だった彼女は、いつの間にかボクシングを通して我々が目を見張るほど洗練とされていました。ストイックな練習のおかげで、たるんだ肉や精神が削ぎ落とされたように見えます。なんてキレイになったの一子!
男性よ、これが想いを踏みにじられた女の闘いだ!
ラストシーン、試合を見に来たボクサーの彼の前で「勝ちたかった」と号泣する一子。いや、確かに彼女は試合に負けました。しかし、一子の勝ちなんですよ。彼女は屑野郎をぎゃふんと言わせたいという目的にしか目を向けず、がむしゃらに頑張っていた過程の中で、知らぬ間に屑みたいな自分に打ち勝ったのです。
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そんな彼女をどう思ったのか、彼は食事に誘って手をつないで歩いて行きます。しかし、その後の彼女の人生は、ここで流れるクリープハイプの主題歌『百八円の恋』の言葉を借りれば“映画にするまでもない”そうです。
とにもかくにも、安藤サクラの演技が素晴らしいです。 最近心身ともにたるんでいるけど、そこから抜け出せない方におすすめの一作。彼女から強くなる気持ちをわけてもらえます。